一次元非線形連続力学の3回目は線形近似していきます。線形近似することで、よっと馴染みのある波動方程式に近づいてきます。
線形化
非線形理論による一次元問題において、問題によっては解を得ることができる場合もありますが、かなり難しい問題である場合が多いです。しかし、非線形理論を適切に線形近似する事ができれば、解を得ることが容易になります。
線形近似された理論では重ね合わせの原理が適用されるため、一般的な数学で扱うことができます。線形方程式で記述される現象は直感的に理解しやすいため、線形方程式に基づいて問題を検討することで実際の物理現象に対する洞察を大幅に高めることがよくあります。一方、線形化に基づく仮定が満たされていることを常に確認する必要があります。なぜなら、小さな非線形性であっても、線形化された理論の結果とかなり異なる場合があるからです。したがって、理論の線形化が可能となる条件を検討することが重要です。
まず、空間表示における \(T(X,t)\) が \(\partial U/\partial X\) に比例するとして式(22)の構成関係を考えてみます。
$$T=S_1\frac{\partial U}{\partial X}\tag{28}$$
ある物質では、この関係は \(|\partial U/\partial X|\ll1\) の場合にのみ適用可能な近似となる場合もありますし、物質によっては1次元理論の場合には \(|\partial U/\partial X|\) がかなり大きな値であっても適用可能な場合もあります。式(28)が成立する場合、式(23)は線形波動方程式として簡略化されます。
$$\frac{\partial^2 U}{\partial X^2}=\frac{1}{C^2}\frac{\partial^2 U}{\partial t^2}\tag{29}$$
ここで、式(24)の関係から、
$$C^2=S_1/ρ_0\tag{30}$$
線形波動方程式の一般解は、つぎの関係を導入することで得られ、
$$α=t-\frac{X}{C} , β=t+\frac{X}{C}\tag{31}$$
式(29)はつぎのように簡略化されます。
$$\frac{\partial^2 U}{\partial α\partial β}=0\tag{32}$$
\(\partial U/\partial α\) は \(α\) の関数であるため、再度積分すると、 \(U(X,t)\) は次の形式でなければなりません。
$$U=F(α)+G(β)=F(t-\frac{X}{C})+G(t+\frac{X}{C})\tag{33}$$
この方程式で使用される関数 \(F( )\) 、 \(G( )\) の任意の形式は、線形波動方程式(29)の解を与えます。時間 \(t\) が \(Δt\) という値だけ増加し、同時に \(X\) が \(CΔt\) だけ増加する場合、引数 \(t-X/C\) は明らかに変化がありません。したがって、 \(F(t-X/C)\) の項は、正の \(X\) 方向に進行する波動の変位を表します。同様に、 \(G(t-X/C)\) の項は負の \(X\) 方向に進行する波動の変位を表します。伝播する変位の形状が変化しないため、伝播課程において歪みがなく損失がありません。
一次元の場合には、物質表示において応力と変位勾配との間の線形関係のみによって、物質座標における線形波動方程式が表現されます。ただし、運動の空間表示においては、運動は非線形であることが強調されるべきです。固定位置 \(x\) において変位 \(u(x,t)\) を観測する場合、粒子の速度と加速度を計算する際には、対流項(流体の運動による量の輸送)を含める必要があります。これは、式(9)と式(12)から求めた次の関係から明らです。
$$v=\frac{\partial u/\partial t}{1-\partial u/\partial x}\tag{34}$$
$$a=\frac{a_1+a_2+a_3}{(1-\partial u/\partial x)^3}\tag{35}$$
ここに、
$$a_1=(1-\partial u/\partial x)^2\partial^2 u/\partial t^2$$
$$a_2=2(1-\partial u/\partial x)(\partial u/\partial t)(\partial^2 u/\partial x\partial t)$$
$$a_3=(\partial u/\partial t)^2\partial^2 u/\partial x^2$$
式(3)と式(4)から次の関係が導かれます(式(3)を \(X\) で偏微分、式(4)を偏微分して、 \(\partial X/\partial x\) を消すと)。
$$\frac{\partial u}{\partial x}=\frac{\partial U/\partial X}{1+\partial U/\partial X}\tag{36}$$
さて、 \(T\) とdU/dXの線形関係が \(|\partial U/\partial X|\ll1\) の条件によって成立する場合、式(36)と式(34)もそれぞれ線形近似され、
$$\frac{\partial u}{\partial x}\simeq\frac{\partial U}{\partial X} and v\simeq\frac{\partial u}{\partial t}\tag{37}$$
しかし、du/dtと2次導関数の大きさが明らかではないため、式(35)を簡略化することはまだできません。
完全線形化の条件を決定するために、運動方程式を空間座標で書きます。式(20)に式(15)、式 (28)、式 (35)および式(36)の結果を用いることで、次の非線形方程式が得られます。
$$\biggl[C^2-\biggl(\frac{\partial u}{\partial t}\biggr)^2\biggr]\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}=$$
$$\biggl(1-\frac{\partial u}{\partial x}\biggr)^2\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}+2\biggl(1-\frac{\partial u}{\partial x}\biggr)\frac{\partial u}{\partial t}\frac{\partial^2 u}{\partial x\partial t}\tag{38}$$
ここで、Cは式(30)で定義されたものです。つぎの形式の解は、式(38)の解を与えます。
$$u(x,t)=f(t-\frac{X}{C})\tag{39}$$
式(39)が解であることは直接代入することで確認できますが、 \(F(t-X/c)\) から式(4)を介して \(u(x,t)\) を構築することによっても分ります。式(39)から次の関係が導かれます。
$$\frac{\partial u}{\partial t}=f’ , \frac{\partial u}{\partial x}=-f’/C\tag{40}$$
ここで、プライムは引数に関する導関数を示します。もし、式(43)の条件を満たせば、式(35)と式(38)は式(39)と式(40)に基づいてつぎのように表すことができます。
$$a=\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}\tag{41}$$
$$C^2\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}=\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}\tag{42}$$
$$|f’|\ll C \tag{43}$$
式(43)は \(|\partial u/\partial x|\ll1\) または \(|\partial U/\partial X|\ll1\) を意味することに注意が必要です。一次元問題において、外部からの作用に対して発生する運動を線形近似するためには、式(43)の条件を満たす必要があります。
線形化理論の表記法
問題が完全に線形化されると、動きの物質表示と空間表示の区別は完全になくなります。したがって、大文字による物質表示の表記または小文字による空間表示の表記のいずれかを使用することができます。しかし、長年にわたって、線形化された理論には小文字の記号を使用することが慣例になってきました。一般に、ギリシャ記号 \(ε_x\) と \(τ_x\) は、それぞれ変位勾配 \(\partial u/\partial x\) と応力成分に使用されます。次の章では、式(28)の比例定数がラメ弾性定数 \(λ\) と \(μ\) を使って \(S_1=λ+2μ\) として表現できることを示します。
したがって、
$$τ_x=(λ+2μ)\frac{\partial u}{\partial x}\tag{44}$$
応力運動方程式は次のように書くことができます。
$$\frac{\partial τ_x}{\partial x}=ρ\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}\tag{45}$$
ここで、p は一定の質量密度です。式(44)を式(45)に代入して波動方程式が得られます。
$$\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}=\frac{1}{c_L^2}\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}\tag{46}$$
ここに、
$$c_L^2=\frac{λ+2μ}{ρ}\tag{47}$$
以上、やっとP波速度が出てきましたね。もう少し我慢して勉強です。
次回は半無限体内の波面の進行について考えます。
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