【線形弾性理論2】運動方程式と角運動量

波動と相互作用問題

 今回は線形弾性とした場合の運動方程式と角運動量について示します。

変形

 物質の変位を定義する場を \(u(x,t)\) で表すとします。連続体の表記として、媒体の変形は変位ベクトルの勾配によって表現できます。線形化理論においては、変形はつぎのような成分を含む微少ひずみテンソル \(\mathbf{ε}\) によって非常に簡単に記述されます。

$$ε_{ij}=\frac{1}{2}(u_{i,j}+u_{j,i})\tag{19}$$

\(ε_{ij}=ε_{ji}\) つまり、\(ε\) が2階の対称テンソルであることは明らかです。また、成分が次のように定義される回転テンソル \(\mathbf{ω}\) の導入も役立ちます。

$$ω_{ij}=\frac{1}{2}(u_{i,j}-u_{j,i})\tag{20}$$

\(ω\) は反対称テンソルであり、\(ω_{ij}=-ω_{ji}\) の関係があります。

線形運動量と応力テンソル

 連続体理論における基本的な仮定は、物体内の任意の物質表面の片側に位置する物質点の反対側の物質点に対する機械的作用は、表面に適切な表面力を規定することによって完全に説明できるというものです。したがって、表面要素が単位外向き法線 \(\mathbf{n}\) を持っている場合、表面力 \(\mathbf{t}\) を導入し、単位面積あたりの力を定義します。表面力は一般に、表面要素の位置 \(\mathbf{x}\) と同様に \(\mathbf{n}\) の方向に依存します。
 物体から閉じた領域 \(V\) と境界 \(S\) を抜き出すとします。表面 \(S\) は、表面応力(トラクション) \(\mathbf{t}(x,t)\) の分布を受けます。物体の各質量要素は、単位質量当たりの体積力 \(\mathbf{f}(x,t)\) を受ける可能性があります。線形運動量の平衡原理によれば、物体の線形運動量の瞬間的な変化率は、特定の瞬間に物体に作用する合成外力に等しい。線形化理論では、これは次の方程式を導きます。

$$\int_{S}\mathbf{t}\enspace dA+\int_{V}ρ\mathbf{f}\enspace dV=\int_{V}ρ\mathbf{\ddot{u}}\enspace dV\tag{21}$$

四面体引数を使用して、式(21) は成分 \(τ_{kl}\) をもつ応力テンソル \(\mathbf{τ}\) を導き出します。ここで、

$$t_l=τ_{kl}\enspace n_k\tag{22}$$

式(22) はコーシーの応力公式(応力テンソルから、任意の面に作用する応力ベクトルを求める公式)です。物理的には、\(τ_{kl}\) は、単位法線 \(i_k\) による表面上のトラクションの \(x_l\) 方向の成分です。
 \(t_l=τ_{kl}n_k\) を代入すると式(21)は次のように添字表記で書き換えられます。

$$\int_{S}τ_{kl}n_k\enspace dA+\int_{V}ρf_l\enspace dV=\int_{V}ρ\ddot{u}_l\enspace dV\tag{23}$$

表面積分はガウスの定理式(13) によって体積積分に変換でき、次のようになります。

$$\int_{V}(τ_{kl,k}+ρf_l-ρ\ddot{u}_l)\enspace dV=0\tag{24}$$

\(V\) は物体の任意の部分である可能性があるため、被積分関数が連続である場合はどこでも、次のようになります。

$$τ_{kl,k}+ρf_l=ρ\ddot{u}_l\tag{25}$$

これがコーシーの運動方程式(第一法則、連続体力学におけるコーシーの応力テンソルの成分が、連続体の各点で平衡方程式を満たすことを示す法則)です。

角運動量の保存則

 角運動量とは、物体の回転運動の状態を表す物理量で、質量、速度、回転半径の積として定義されます。さて、線形化理論の場合、運動量モーメントの原理は次のようになります。

$$\int_{S}(\mathbf{x}\wedge\mathbf{t})\enspace dA+\int_{V}(\mathbf{x}\wedge\mathbf{f})ρ\enspace dV=\int_{V}ρ\frac{\partial}{\partial t}(\mathbf{x}\wedge\mathbf{\dot{u}})\enspace dV$$

右辺を簡略化し、指標(添字)表記を導入すると、方程式は次のように書くことができます。

$$\int_{S}e_{klm}x_lt_m\enspace dA+\int_{V}ρe_{klm}x_lf_m\enspace dV=\int_{V}ρe_{klm}x_l\ddot{u}_m\enspace dV\tag{26}$$

ここで、上式の左辺第一項は、表面積分 \(t_m\) を式(22)から置き換え、さらにガウスの定理を使用すると次のようになります。

$$\int_{S}e_{klm}τ_{nm}n_n\enspace dA=\int_{V}e_{klm}(δ_{ln}τ_{nm}+x_lτ_{nm,n})\enspace dV$$

運動の第一法則により式(26) を変形すると、上式の左辺および右辺第二項が等しいという関係になり、常に次式が成り立つこととなります。

$$\int_{V}e_{klm}δ_{ln}τ_{nm}\enspace dV=0$$

または

$$e_{klm}τ_{lm}=0$$

この結果は次のことを意味します。

$$τ_{lm}=τ_{ml}\tag{27}$$

すなわち、応力テンソルは対称です。

以上、線形弾性とした場合の線形運動量と各運動量について示しました。

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